多汗症の相談はよくありますが、その逆はあまり知られていません。汗をかかないことを「汗っかきじゃなくてよかった」と受け止めている方が多いためです。ですが皮膚科から見ると、こちらのほうが体にとっては危険な状態です。
汗は何をしているのか
体温が上がると、脳が「汗を出せ」という指令を出し、皮膚にあるエクリン汗腺から汗が出ます。汗そのものが冷たいのではなく、汗が蒸発するときに体の熱を奪うことで体温が下がります。人間はこの仕組みに大きく依存していて、ほかに体温を下げる有効な手段をほとんど持っていません。
ですから汗が出ないと、熱が体の中にこもり続けます。顔だけ真っ赤になる、頭がぼーっとする、動悸がする、といった症状は、体温を下げられていないサインです。
汗をかけなくなる主な原因
臨床で出会う頻度の順に挙げます。
- アトピー性皮膚炎など、皮膚の慢性的な炎症 — 汗の出口である汗管が炎症で詰まり、汗が出にくくなります。汗をかけないことが、さらに皮膚の乾燥とかゆみを悪くするという悪循環になります(関連記事: アトピー性皮膚炎)
- 薬の影響 — 抗コリン作用をもつ薬(一部の胃腸薬、抗アレルギー薬、抗うつ薬、過活動膀胱の薬など)や、多汗症の治療薬で汗が減ることがあります。薬を始めた時期と一致していないかを必ず確認します
- 特発性後天性全身性無汗症(AIGA) — 原因がはっきりしないまま、全身の汗が急に出なくなる病気です。10〜30代の男性に比較的多く、暑いときや運動時に、汗の代わりにチクチク・ピリピリする痛みやかゆみが出るのが特徴です
- 糖尿病などによる神経の障害 — 汗の指令を伝える神経が働かなくなります。足から始まることが多い形です(関連記事: 糖尿病と皮膚)
- シェーグレン症候群などの膠原病 — 汗腺そのものが障害されます(関連記事: 膠原病の皮膚症状)
- やけどや外傷の瘢痕、加齢 — その部分の汗腺が失われます。高齢の方で全身的に汗が減るのは、暑さに気づきにくくなることと重なって危険です
「汗をかくとチクチク痛い」タイプについて
これはとくに見落とされやすい訴えです。運動したとき、熱いものを食べたとき、入浴時に、全身がチクチク・ピリピリ痛む。汗はほとんど出ない。この組み合わせで来られた方には、無汗症を念頭に置いて診察します。
似た症状を出すものにコリン性蕁麻疹があります(関連記事: 汗をかくとチクチクかゆい)。こちらは小さな膨らみが出て、汗自体は出ることが多いという違いがあります。ただし両者が重なっていることもあり、見た目だけで決めつけません。
診断と治療
診察では、どこで汗をかき、どこでかいていないかを確かめます。皮膚に薬剤を塗って発汗の分布を見る検査や、汗の量を測る検査を行う施設もあります。あわせて血液検査で、ほかの病気が背景にないかを調べます。
治療の方向は、原因によってはっきり分かれます。
- 皮膚の炎症が原因なら、炎症の治療が最優先です — 皮膚が落ち着くと汗が出るようになる方がいます
- 薬が原因なら、処方した医師と相談して調整します — 自己判断で中止しないでください。その薬が必要で出ている以上、代わりの選択肢を含めて考える必要があるためです
- 特発性後天性全身性無汗症では、入院してステロイドを使う治療が検討されます — 発症から時間がたっていないほど反応が期待しやすいとされており、「夏が終われば治るだろう」と待つのは不利な判断です。この治療は専門的な施設で行われるため、疑わしい段階で紹介します
汗をかけない方の、夏の過ごし方
治療と並行して、体温を外から下げる工夫が要ります。のどの渇きを待たないこと、そして「冷やす場所を選ぶこと」が要点です。
- 首の横、わきの下、脚のつけ根を冷やす — 太い血管が皮膚の近くを通っており、効率よく血液を冷やせるためです
- 霧吹きで体を濡らし、扇風機の風を当てる — 汗の代わりに水を蒸発させて熱を奪う、という発想です。汗がかけない方にとっては、これが実質的な代用になります
- 空調のある場所から離れすぎない — 我慢して屋外にとどまることが最も危険です
- 運動は涼しい時間帯・涼しい場所で — 学校や職場には事情を伝えておいてください。見た目には分からないため、周囲が気づけません
- 入浴も要注意 — 湯船で体温が上がったまま出られなくなる方がいます。ぬるめ・短時間にしてください
診察室でよく聞かれる質問
| 質問 | 答え | 理由 |
|---|---|---|
| 汗をかかないのは楽では? | 体温調節ができないという意味では不利です | においや汗じみの悩みはなくなりますが、熱中症のリスクと引き換えになっているためです |
| サウナや運動で汗腺を鍛えられる? | 原因によります。自己流の「暑熱順化」は危険なことがあります | 汗が出ない状態で体温だけ上げると、熱がこもるだけになるためです。まず原因を確かめてください |
| 部分的に汗をかかないのは? | やけどや傷の跡、神経の障害を考えます | その部分の汗腺や神経が失われている可能性があるためです |
| 顔だけ大量に汗が出るのは? | 体の別の場所でかけないぶんを、残った場所が補っていることがあります | 代償性発汗といい、無汗の裏返しとして現れることがあるためです |
| 何科を受診すればいい? | まず皮膚科です | 汗腺と皮膚の状態の評価が出発点になり、必要に応じて専門施設へ紹介するためです |
受診の目安
- 受診を — 周囲が汗をかく状況で、自分だけほとんど汗が出ない
- 受診を — 運動時や入浴時に、全身がチクチク・ピリピリ痛む
- 受診を — 暑い場所ですぐに気分が悪くなる、頭痛や動悸が出る
- 受診を — 新しい薬を飲み始めてから汗が減った
- すぐに救急要請(119番)を — 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い、体が熱いのに汗が出ていない(熱中症が疑われます)
あび皮膚科クリニックは2027年の開業を予定しています。開業のお知らせやご質問・ご意見は、お問い合わせフォームからお寄せいただけます。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「汗の病気」(確認日: 2026-09-19)
- 日本皮膚科学会 診療ガイドライン一覧(確認日: 2026-09-19)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

