「足の裏のシミが前より広がった気がする」「爪に黒い線が出てきた」——外来では、ご本人よりご家族が先に気づいて来られることの多い相談です。黒いできもののほとんどは、ほくろや老人性のイボといった良性のものです。心配のいらないものが大多数だという前提は、はじめにお伝えしておきます。ただし数は少なくても見逃してはいけないものが混じるため、ここでは「どこを見て、どこで線を引くか」を整理します。
メラノーマとは: 色をつくる細胞が悪性化したもの
皮膚の色は、表皮のいちばん下にあるメラノサイト(色素細胞)がつくるメラニンで決まります。このメラノサイトが悪性化したものがメラノーマです。ほくろも同じ系統の細胞からできますが、もとからあった普通のほくろが年月をかけてメラノーマに変わることは、実際にはまれです。多くはもともと何もなかった場所に新しく出てくると考えたほうが現実に合っています。
やっかいなのは、初期には痛みもかゆみも出血もないことです。「痛くないから大丈夫」という判断は、この病気に関しては当てはまりません。手がかりになるのは見た目と、時間による変化の二つだけです。
日本人でできやすいのは足の裏と爪
欧米では背中や下腿など日光の当たる部位に多いのですが、日本人でいちばん多いのは足の裏(足底)で、次いで手のひら・爪です。靴の中や爪は、ふだん自分の目に入りません。「見えない場所ほど発見が遅れる」という単純な理由で、進んだ状態で受診される方が出ます。
- 足の裏 — 土踏まず・かかと・指の付け根。新しく黒い斑が出た、または前からあるものが広がってきた
- 爪 — 縦の黒い線。1本の指だけに出る、線が太くなる、色むらがある
- 手のひら・指 — 足の裏と同じ見方をします
- 顔・頭・首の後ろ — 長年日光を浴びてきた高齢の方の、ぼんやりした褐色の染み
お風呂のあとに足の裏を一度だけ見る——年に数回で構いません。これが現実的にいちばん効く習慣です。
ほくろとの見分け: ABCDEで見る
| 見るところ | 良性のほくろに多い | 気をつけたい所見 |
|---|---|---|
| A 左右対称性 | 丸、または楕円で左右対称 | ゆがんで左右非対称 |
| B 輪郭 | ふちがはっきりしている | ふちがギザギザ/にじんでぼやける |
| C 色 | ほぼ均一な茶色や黒 | 濃淡のむら、黒・茶・赤・白が混じる |
| D 大きさ | おおむね6mm以下 | 6mmを超える(小さくても変化があれば対象) |
| E 変化 | 何年も変わらない | 大きくなる・盛り上がる・出血する・色が変わる |
5つのうちもっとも重いのはE(変化)です。今の見た目が多少いびつでも、10年変わっていないものは慌てる所見ではありません。逆に小さくても「この数か月で変わった」ものは、それだけで受診の理由になります。スマートフォンで日付の残る写真を撮っておくと、比べる材料になります。
爪に出た黒い線をどう見るか
爪の黒い縦線(爪甲色素線条)は、その多くが良性です。日本人ではもともと色素の線が出やすく、複数の指に同じように出ているもの、子どもに出たもの、何年も太さの変わらないものは、経過を見ることが多くなります。
一方で、1本の指だけに出た/線の幅が広がってきた/線の中に色の濃淡がある/爪の根元の皮膚にまで色がはみ出している/爪が割れる・変形するといった所見があれば、ダーモスコピーで詳しく見る対象です。ぶつけた覚えのある内出血は、数週間で先端へ移動して消えていきます。「動かないか」も見分けの手がかりになります(関連記事: 爪の黒い線・白い線)。
診断と治療の流れ
診断はまずダーモスコピーという拡大鏡で見るところから始まります。皮膚に光を当てて、肉眼では見えない色素の並び方を観察する検査で、痛みはなく、傷もつきません。これで良性と判断できるものが大半です。
疑わしいときは皮膚生検(一部または全部を切り取って顕微鏡で調べる)を行い、診断を確定させます。メラノーマと診断された場合、治療の基本は手術で確実に切除することです。病変の厚みに応じて、周囲にどれだけ余裕をもって切るかが決まり、必要に応じてリンパ節への広がりを調べる検査を行います。進行した段階では、免疫の仕組みに働きかける薬や、遺伝子の変化に合わせた薬を使う治療が行われることがあり、これらは皮膚科・腫瘍内科のある病院での治療になります。
だからこそ、診断のつく前に自己判断で処置しないでください。削る・焼く・凍らせるといった方法は、病変の厚みという最も大事な情報を失わせます。美容目的でほくろを取る場合も、取ったものを病理検査に出せる方法を選ぶほうが安全です。
診察室でよく聞かれる質問
| 質問 | 答え | 理由 |
|---|---|---|
| ほくろを刺激すると、がんになる? | 刺激で悪性化するとは考えられていません | ただし繰り返しこすれて出血する場所のものは、見分けが難しくなるため相談を |
| 足の裏のほくろは全部取るべき? | その必要はありません | 足の裏のほくろ自体はよくあるもので、ダーモスコピーで良性の並び方かどうかを判断できるためです |
| 健診では調べてもらえる? | 皮膚は対象外のことが多いです | 気になる部位は自分から皮膚科へ持ち込む必要があります |
| どのくらいの間隔で見ればいい? | 変化がなければ年に1〜2回 | 毎日見ると小さな変化に気づけません。間隔をあけたほうが比較になります |
| 家族にいると自分もなりやすい? | 受診時に伝えてください | 血縁者の既往は診察の際の判断材料になるためです |
受診の目安
- 早めに受診 — 足の裏や手のひらに新しく黒い斑ができた/前からあるものが広がってきた
- 早めに受診 — 1本の指の爪だけに黒い線が出た、線が太くなってきた
- 早めに受診 — ABCDEのE(変化)に当てはまる、出血する、盛り上がってきた
- 受診前にしないこと — 削る・かさぶたを剥がす・市販の角質軟化剤を使う。診断が難しくなります
- 迷ったとき — 写真を撮ってから受診してください。「いつからこうか」を伝えられると診察が進みます
あび皮膚科クリニックは2027年の開業を予定しています。開業のお知らせやご質問・ご意見は、お問い合わせフォームからお寄せいただけます。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A メラノーマ(確認日: 2026-09-15)
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 皮膚悪性腫瘍(確認日: 2026-09-15)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

