「子どもの頭に、10円玉より大きい薄い部分ができた」「本人は『抜いていない』と言う」——学童期から思春期のお子さんについて、ご家族から寄せられる相談です。大人にもあります。本人に自覚があることもあれば、無意識のうちに手が動いていることもあり、「嘘をついている」とは限りません。
抜毛症とは: 抜く行為が習慣として固定したもの
抜毛症は、自分で髪や眉毛・まつ毛を抜いてしまう行為が繰り返され、それによって毛が減っている状態です。「やめたいのにやめられない」という形をとることが多く、意志が弱いから起きるものではありません。
多くはテレビを見ているとき・勉強中・寝る前など、手持ちぶさたで、注意がほかに向いている場面で起こります。無意識に手が頭にいき、指先で毛を探り、特定の手ざわりの毛を抜く——本人がそれと気づいていないことも珍しくありません。だから「見ていないときにやっている」という家族の観察と、「抜いていない」という本人の言葉は、両方とも正しいことがあります。
背景に、環境の変化や緊張が関係していることはありますが、「ストレスが原因」と一言で片づけるのは正確ではありません。はっきりしたきっかけがない場合も多く、原因探しに時間をかけるより、手が頭にいく場面を減らす工夫のほうが実際には効きます。
円形脱毛症との見分け
| 抜毛症 | 円形脱毛症 | |
|---|---|---|
| 境目の形 | 不整形。直線的だったり、いびつだったりする | まるい、または楕円で境目がはっきり |
| 残っている毛 | 長さがまちまちの短い毛が残る(断裂した毛) | その範囲の毛がきれいに抜けている |
| 地肌 | 点状の出血や、かさぶたがあることも | なめらかでつるっとしている |
| 場所 | 利き手の届きやすい側に偏ることが多い | 左右どちらにも。複数できることも |
| 眉・まつ毛 | 同時に減ることがある | まれに同時に起こる(関連記事: 円形脱毛症) |
| 経過 | 行為が続くかぎり続く | 自然に生えてくることも多い |
診察ではダーモスコピーという拡大鏡で頭皮を見ます。折れた毛、長さの違う毛、毛穴の中に残った毛——こうした所見は肉眼では分かりませんが、拡大すればはっきり見えます。痛みのない検査で、その場で数分です。抜け毛の量が増える別の原因(関連記事: 休止期脱毛)との区別にも役立ちます。
どう関わるか
まず、叱る・見張る・手を押さえるという対応は、ほぼ役に立ちません。理由があります。抜毛は緊張が高まったときに増える性質があるため、叱責によってその場では止まっても、見ていない場所で増えるからです。「隠れてやるようになった」という家族の報告は、たいてい強く注意した後に出てきます。
- 行為ではなく場面に働きかける — いつ手が動いているかを一緒に観察します。テレビ・勉強・寝る前など、時間帯が決まっていることがよくあります
- 手をふさぐ — その時間だけ、手に何か持たせる・握るものを用意する。手の届く場所に代わりの動作を置くほうが、止めるよう言うより成功します
- 物理的に触りにくくする — 帽子、髪を結ぶ、短くするなど。本人が納得できる範囲で
- 記録をつける — 責めるためではなく、減っているかを確かめるためです。数字にすると、本人もよくなっていることに気づけます
- できていた日を言葉にする — 抜かなかった時間に目を向けるほうが続きます
皮膚科では、頭皮に炎症や感染がないかを確かめ、別の脱毛症ではないことを確認します。そのうえで、行為そのものへの対応が中心になる場合は、児童精神科・精神科・心療内科と連携します。本人の困り具合や年齢によって、どこが主になるかは変わります。「皮膚科に行っても意味がない」ということはありません。まず診断をつけるのが出発点です。
診察室でよく聞かれる質問
| 質問 | 答え | 理由 |
|---|---|---|
| 抜いた場所の毛は生えてくる? | 行為が止まれば、多くは生えてきます | 毛根が残っているためです。ただし長年繰り返した場所は、生えにくくなることがあります |
| 本人に問いただすべき? | 問い詰めないでください | 否定から入ると相談できなくなり、行為が隠れるだけになるためです |
| 育て方のせい? | そうではありません | 特定の育て方で決まるものではなく、家庭の責任として扱う考え方は診療の役に立ちません |
| 学校に伝えたほうがいい? | 本人と相談して決めてください | 見た目をからかわれることがあり、本人が望む範囲で環境を整えるほうが安定するためです |
| 毛を食べてしまうことがある | 必ず受診時に伝えてください | 飲み込んだ毛が胃の中にたまると、内科的な治療が必要になることがあるためです |
受診の目安
- 受診を — 脱毛した部分に、長さのまちまちな短い毛が残っている
- 受診を — 眉毛やまつ毛も一緒に減ってきた
- 受診を — 範囲が広がってきた、本人がやめたいのにやめられないと言っている
- 早めに受診 — 抜いた毛を口に入れる・飲み込むことがある
- 早めに受診 — 頭皮が赤く腫れている、じくじくしている(感染を起こしている可能性があります)
あび皮膚科クリニックは2027年の開業を予定しています。開業のお知らせやご質問・ご意見は、お問い合わせフォームからお寄せいただけます。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 脱毛症(確認日: 2026-09-15)
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A一覧(確認日: 2026-09-15)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

