脂肪腫(しぼうしゅ)は、皮膚の下に脂肪細胞が増えてできる良性の腫瘍です。多くはやわらかく、痛みもなくゆっくり大きくなるため、長年放置されていることも少なくありません。良性であれば急いで取る必要がないケースもありますが、自然に消えることは基本的に期待できず、根本的に治すには手術で摘出する方法が一般的です。
ただし、「やわらかいしこり=脂肪腫」と自己判断で決めつけるのは危険です。見た目や触った感じが似ていても、粉瘤(ふんりゅう)など別のできものであったり、まれに悪性の腫瘍(脂肪肉腫など)が紛れていたりする可能性があります。しこりに気づいたら、大きさにかかわらず一度皮膚科で診察を受け、診断を確認しておくことをおすすめします。
脂肪腫とは・できやすい部位
脂肪のかたまりが皮膚の下で増える良性腫瘍
脂肪腫は、成熟した脂肪細胞が皮膚の下(皮下)で増殖してできる良性の軟部腫瘍です。皮膚のできものの中では頻度が高いものの一つとされ、中年以降にみつかることが多いといわれています。なぜできるのか、はっきりした原因は分かっていませんが、体質や遺伝的な要因が関わる場合があると考えられています。
できやすい部位と特徴
背中、肩、首、腕、太ももなど、体幹や手足の付け根付近にできやすいとされています。典型的には次のような特徴があります。
- 触るとやわらかく、弾力がある
- 押すと皮膚の下でわずかに動く
- 痛みやかゆみは通常ない
- 数年単位でゆっくり大きくなる
ただし、深い場所(筋肉の中や筋肉の下)にできた脂肪腫は硬く触れることもあり、触った感触だけで判断はできません。診察で確認が必要です。
粉瘤との違い(比較表)
皮膚の下のしこりとして受診される方が多いのが、脂肪腫と粉瘤です。両者は治療方針が異なるため、区別が重要です。
| 項目 | 脂肪腫 | 粉瘤 |
|---|---|---|
| 正体 | 脂肪細胞の増殖 | 皮膚の袋に角質・皮脂がたまったもの |
| 硬さ | やわらかいことが多い | やや硬め・弾力がある |
| 皮膚との関係 | 皮膚とは離れていて動きやすい | 皮膚とつながっており、中央に黒い点(開口部)がみられることがある |
| 炎症・臭い | まれ | 細菌感染で急に腫れ、膿や臭いが出ることがある |
| 治療 | 手術で摘出 | 手術で袋ごと摘出 |
もっとも、実際には見た目だけで区別がつきにくいケースも多く、最終的な診断には診察や検査が必要であり、場合によっては摘出後の病理検査で初めて診断がつくこともあります。粉瘤について詳しくは別記事で解説しています(関連記事: 粉瘤(アテローム)とは?原因・症状・治療法を解説|自然には治らない皮膚のできもの)。
悪性(脂肪肉腫)を疑うサイン
脂肪腫の大多数は良性ですが、まれに脂肪肉腫という悪性腫瘍との区別が問題になることがあります。過度に心配する必要はありませんが、次のような特徴がある場合は、早めに診察と検査を受けることが大切です。
- 短期間で急に大きくなってきた
- 5cmを超えるなど、サイズが大きい
- 太ももの奥など、深い場所にある
- 硬い、動きにくい、痛みを伴う
これらのサインがあっても悪性と決まるわけではありません。逆に、サインがないから良性と断定できるものでもないため、気になるしこりは診察で確認しておくと安心です(関連記事: 皮膚腫瘍とは?良性と悪性の違い・診断の流れ・手術と病理検査を皮膚科医が解説)。
受診の目安
- 皮膚の下にしこりがあり、脂肪腫かどうか分からない
- しこりが少しずつ大きくなっている
- 服や動作でこすれて気になる、見た目が気になる
- 過去に「脂肪腫」と言われたが、その後変化してきた
このような場合は、症状が軽くても一度皮膚科の受診をご検討ください。急に大きくなる、痛みが出てきた、皮膚の色が変わってきたといった変化がある場合は、早めの受診をおすすめします。
検査方法
診察ではまず、しこりの大きさ・硬さ・深さ・動きやすさなどを確認します。そのうえで、必要に応じて超音波(エコー)検査などの画像検査を行い、しこりの内部の状態や深さを評価します。大きいものや深いもの、悪性が疑われるものでは、MRIなどの精密検査や高次医療機関への紹介が検討されることもあります。
摘出した組織は病理検査(顕微鏡での確認)に提出し、診断を確定させるのが一般的な流れです。
手術の流れ・時間
日帰りの局所麻酔手術が一般的です
体表近くの一般的な脂肪腫であれば、局所麻酔による日帰り手術で摘出できることが多いです。おおまかな流れは次のとおりです。
- 診察・検査で診断と手術の適応を確認
- 手術日を決定(大きさや部位によっては当日の説明のみの場合もあります)
- 局所麻酔をして皮膚を切開し、脂肪腫を被膜ごと摘出
- 縫合して終了。摘出物は病理検査へ
- 後日、傷の確認と抜糸、病理結果の説明
手術時間はしこりの大きさや深さによりますが、小さいものであれば10分前後が一つの目安です。大きいもの・深いものでは時間がかかったり、対応できる医療機関が限られたりします。
当院では、おおむね1時間以内で終えられる手術を日帰り対応の目安とし、10cmを超えるような大きな腫瘍は高次医療機関へのご紹介を含めて検討します。
リスク・合併症
手術には、出血、感染、傷跡(体質によっては肥厚性瘢痕やケロイド)、再発の可能性などのリスクがあります。傷跡を目立ちにくくする配慮は行われますが、傷が残らないわけではありません。リスクの程度は部位や大きさによって異なるため、診察時にご確認ください。
費用(保険)
医学的な必要性に基づく脂肪腫の摘出手術は、健康保険の適用対象となるのが一般的です。診療報酬に基づく一般的な目安として、3割負担の場合、しこりの大きさや部位(露出部かどうか)に応じて、手術費用はおおよそ数千円〜2万円台の幅になることが多く、これに初診料・検査費用・病理検査費用・薬代などが加わります。
正確な金額は大きさ・部位・検査内容によって変わります。当院では、開院後の手術代の目安を3割負担で約8,000円と見込んでいます(大きさ・部位により変わります)。
放置の可否
脂肪腫は良性であれば、すぐに命や健康に関わることは通常ありません。小さくて変化がないものは、経過観察という選択肢もあり得ます。ただし、次の点は知っておくとよいでしょう。
- 自然に消えることは基本的に期待できない
- 大きくなってからの手術は、傷が大きくなり体の負担も増えやすい
- 「脂肪腫だと思っていたら別のできものだった」というケースがある
放置するかどうかを自己判断する前に、まず診断を確定させることが大切です。経過観察でよいかどうかも含めて、診察でご相談ください。
よくある質問
Q1. 脂肪腫は自然に小さくなりますか?
自然に消えたり小さくなったりすることは、基本的に期待できないとされています。大きさや症状に応じて、経過観察か手術かを医師と相談して決めるのが現実的です。
Q2. 手術は痛いですか?
局所麻酔を使用して行うため、手術中の痛みは抑えられるよう配慮されます。麻酔の注射時にチクッとした痛みを感じることや、麻酔が切れた後に傷の痛みが出ることはあります。痛み止めの処方など、術後の対応は診察時にご確認ください。
Q3. 脂肪腫は再発しますか?
被膜ごと完全に摘出できれば同じ場所での再発は少ないとされますが、取り残しがあった場合などに再発する可能性はあります。また、体質的に別の場所へ新しくできることもあります。
Q4. 何科を受診すればよいですか?
皮膚のしこりは、まず皮膚科(皮膚外科)でご相談いただけます。大きさや深さによっては形成外科・整形外科など適切な診療科へご紹介する場合があります。
関連記事
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「アテローム(粉瘤)」 – https://qa.dermatol.or.jp/qa17/index.html (2026年8月28日確認)
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A(一般向け情報) – https://qa.dermatol.or.jp/ (2026年8月28日確認)
- 日本皮膚科学会の公開情報(皮膚科Q&A等)
- 日本形成外科学会の公開情報(皮膚・皮下腫瘍に関する解説)
- 公益社団法人 日本皮膚科学会・公益社団法人 日本整形外科学会「悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の適切な切除を目指すための共同提言」(しこりの大きさ5cmを注意の目安とする記載の出典)
- 国立がん研究センター 希少がんセンター「軟部肉腫」

