「プリントが手汗でふやける」「人と握手するのが怖い」「スマートフォンの画面が濡れて反応しない」「靴の中が汗でびっしょりになる」。手のひらや足の裏の汗は、本人にとってはとてもつらい悩みですが、「体質だから」とあきらめている方が少なくありません。手足の多汗症には、塗り薬のほかに、イオントフォレーシスという通院の治療があります。
イオントフォレーシスとは(仕組み)
汗は、皮膚の中にあるエクリン汗腺という小さな腺から、汗の出口(汗孔)を通って皮膚の表面に出てきます。イオントフォレーシスでは、水道水に手足をひたした状態で弱い電流を流します。すると、電気によって生じた水素イオンが汗の出口付近に働きかけ、汗の出口を一時的に出にくくすると考えられています。
薬を体に入れる治療ではないため、全身への副作用の心配が少ないのが特徴です。一方で、汗腺そのものを壊すわけではないので、やめると時間とともに汗の量は元に戻っていきます。
多汗症の症状と、治療の選び方
手足の多汗症は、緊張したときだけでなく、暑くなくても、じっとしていても、日常生活に困るほど汗が出るのが特徴です。子どものころから始まり、家族にも同じ悩みの方がいることがよくあります。寝ている間は汗が止まるのも特徴の一つです。
| 治療 | 手のひら | 足の裏 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 塗り薬(抗コリン外用薬など) | 保険で使える薬がある | 主に塩化アルミニウムなど | 自宅で毎日続けられる。かぶれ・皮膚の刺激が出ることがある |
| イオントフォレーシス | 保険で受けられる | 保険で受けられる | 薬を使わない。通院が必要 |
| ボツリヌス注射 | 自由診療が中心 | 自由診療が中心 | 効果が数か月続く。注射の痛みがある |
| 手術(交感神経遮断術) | 重症の場合に検討 | — | 背中など別の場所の汗が増える(代償性発汗)ことがあり、慎重に判断する |
※手のひら・足の裏へのボツリヌス注射は自由診療です。費用は両手で数万円〜十数万円程度が目安とされていますが、医療機関ごとに異なり、効果の感じ方には個人差があります。主なリスクは注射の痛み・内出血、一時的に指先の力が入りにくくなることです。
手のひらの汗には、まず塗り薬とイオントフォレーシスを組み合わせる、または塗り薬で刺激が出る方がイオントフォレーシスに切り替える、という進め方が一般的です。足の裏の汗は使える塗り薬が限られるため、イオントフォレーシスの役割が大きくなります。
治療の流れと、通院の目安
- 専用の機器のトレーに水道水を張り、手のひら(または足の裏)をひたします
- 弱い電流を流し、1回あたり数十分ほど続けます。ピリピリ・チクチクとした感覚がありますが、電流の強さは調整できます
- はじめは週に1回ほど通院し、効果を感じるまでに数週間かかるのが一般的です
- 汗が落ち着いてきたら間隔をあけ、効果を保てる頻度で続けます
家庭用の機器も販売されていますが、医療機関で効果と使い方を確かめてから検討すると、合わないものを買ってしまう失敗を防げます。
受けられない・注意が必要な方
- ペースメーカーなど体内に電気で動く機器がある方: 電流が機器に影響するおそれがあります
- 妊娠中の方: 安全性が確かめられていないため、通常は行いません
- 治療する場所に金属(骨折の固定具など)が入っている方
- 手足に傷やひび割れ、湿疹がある方: 傷に電流が集まって痛みが強く出るため、ワセリンで保護するか、治ってから行います
副作用としては、治療中のピリピリ感、治療後の皮膚の乾燥や赤みが多く、保湿で対応できることがほとんどです。
受診の目安
- 手汗・足汗のせいで、勉強・仕事・人づきあいに困っている
- 市販の制汗剤を使っても、生活が変わるほどの効果がない
- 汗のせいで手足の湿疹・水虫・においにも悩んでいる
- 大人になってから急に汗が増えた、片側だけ汗が多い、寝汗もひどい(甲状腺の病気など、別の原因がないかを確かめます)
診察室でよく聞かれる質問
子どもでも受けられますか?
小学生くらいから受けている方もいます。電流を感じる刺激があるため、怖がらずに続けられるかどうかを、お子さんと一緒に確かめながら始めます。テストや部活動など、汗で困る場面がはっきりしているほど、続ける動機になりやすいです。
どのくらいで効果が出て、どのくらいもちますか?
多くの方は、週1回ほどの通院を続けて数週間で変化を感じ始めます。効果のもちには個人差があり、間隔をあけると少しずつ戻るため、自分にとってちょうどよい頻度を探しながら続けることになります。
治療の前の日にしておくことはありますか?
手足のささくれや小さな傷は、電流で痛みが出やすくなります。前の日に爪を切りすぎたり、角質を削ったりするのは避けてください。指輪や時計などの金属も、治療の前に外しておきます。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 汗の病気(確認日: 2026-10-04)
- 日本皮膚科学会 ガイドライン一覧(確認日: 2026-10-04)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

