「おなかの注射をしている場所が硬くなってきた」「最近、同じ量を打っているのに血糖が下がりにくい」「注射が痛くないので、つい同じところに打っている」。インスリン注射を続けている方によく見られるのが、注射部位のしこりです。痛みがないため気づきにくく、血糖のコントロールにも影響します。
インスリンボールとは(仕組み)
同じ場所に何度も注射をしていると、その部分の皮膚の下で次のような変化が起こります。
- 脂肪が厚く盛り上がる(脂肪肥大): インスリンには脂肪を増やす働きがあるため、同じ場所に打ち続けると、その部分の脂肪がふくらんでやわらかいしこりになります
- インスリンのかたまりがたまる(インスリンボール): 注射したインスリンが、皮膚の下で特殊なたんぱく質のかたまり(アミロイド)になり、硬いしこりになります
どちらも、しこりの部分は薬が吸収されにくいのが問題です。打った量のインスリンが十分に効かないため、血糖が高くなり、知らないうちに注射の量が増えていく、ということが起こります。
症状・見分け
注射をしている場所(おなか・太もも・二の腕など)に、やわらかい盛り上がりや硬いしこりを触れます。痛みはほとんどなく、むしろしこりの部分は注射の痛みを感じにくいため、ますます同じ場所に打ちやすくなります。
| 考えられるもの | 触った感じ | ポイント |
|---|---|---|
| 脂肪肥大 | やわらかく、ふくらんでいる | 注射をやめると、ゆっくり小さくなることが多い |
| インスリンボール | 硬く、ゴムのようなしこり | 自然には小さくなりにくい |
| 脂肪腫 | やわらかく、ゆっくり大きくなる | 注射と関係のない場所にもできる |
| 注射部位の感染 | 赤く腫れて痛む、熱をもつ | 早めの受診が必要 |
しこりの深さや大きさは、超音波(エコー)検査で確かめることができます。
予防と対処
予防の基本は、注射の場所を毎回少しずつずらすことです。前回打った場所から2〜3cm(指2本分くらい)ずらし、おなかなら、おへその周りを時計回りに移動していくなど、自分なりのルールを決めると続けやすくなります。注射針も毎回新しいものに替えます。
しこりに気づいたときに注意したいのが、急にしこりのない場所に変えると、薬が急によく吸収されて低血糖になることがある点です。しこりの部分では効きが悪かったぶん、量が多めになっていることがあるためです。場所を変えるときは、主治医と相談して、血糖の測定を増やしながら行ってください。
脂肪肥大は、注射をやめると時間をかけて小さくなることが多いです。硬いインスリンボールは残りやすく、まれに手術で取り除くこともあります。
受診の目安
- 注射をしている場所に、しこりや盛り上がりを触れる
- 同じ量を打っているのに、血糖が以前より下がりにくい
- 注射部位が赤く腫れて痛む、熱をもつ
- 注射の場所を変えたあと、低血糖の症状(冷や汗・ふるえ・強い空腹感)が出た
低血糖の症状が出たら、まずブドウ糖などをとってください。意識がもうろうとしている場合はすぐに救急要請(119番)を。まずは糖尿病の主治医に相談し、しこりの判断や処置が必要な場合に皮膚科と連携します。
診察室でよく聞かれる質問
しこりの部分に打つ方が痛くないのですが、だめですか?
痛みが少ないのは、しこりの部分の感覚が鈍くなっているためです。そこでは薬がうまく吸収されないため、避けてください。少し痛くても、しこりのない場所に打つ方が、薬は安定して効きます。
インスリン以外の注射でもできますか?
ほかの自己注射の薬でも、同じ場所に打ち続けると皮膚の下が硬くなることがあります。注射の場所をずらすことは、どの自己注射でも基本です。
しこりは自分で探せますか?
見た目では分かりにくいことが多いので、指の腹で注射する範囲をなでるように触って確かめます。月に1回程度、ご自身で触って確認する習慣をつけると安心です。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A一覧(確認日: 2026-10-09)
- 日本皮膚科学会 ガイドライン一覧(確認日: 2026-10-09)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

