皮膚科でもっとも多く処方される薬のひとつが、ヘパリン類似物質を含む保湿剤です。よく出る薬だけに「とりあえずもらっておくもの」と思われがちですが、剤形の選び方と塗る量で、効き方はまったく変わります。また、使ってはいけない場面もあります。
ヘパリン類似物質とは — 水を抱えさせる保湿
保湿剤は、働き方で大きく2つに分かれます。
- エモリエント(蓋をする) — ワセリンなど。皮膚の表面に油の膜を作り、中の水分が逃げるのを防ぎます。自分で水分を増やす力はありません
- モイスチャライザー(水を抱える) — ヘパリン類似物質、尿素など。角層に水分を引き寄せて保持させます
ヘパリン類似物質は後者にあたり、水分を保持する働きに加えて、血行を促す働き、炎症を抑える働きがあるとされています。乾燥した皮膚に使うと、単に表面がしっとりするだけでなく、角層そのものの状態が整っていきます。
この「血行を促す」性質があるため、傷あとや、しこりのように硬くなった部分をやわらかくする目的で使われることもあります(関連記事: 傷あとをきれいに治す)。一方で、同じ性質が使えない理由にもなります。後述します。
剤形の使い分け
| 剤形 | 特徴 | 向く場面 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 軟膏 | 油性でべたつくが、刺激が少ない | ひび割れ、傷のある部分、赤ちゃん | 広い範囲は塗りにくい |
| クリーム | のびやすく、しっとりする | 手足・体の乾燥全般。もっとも汎用性が高い | 傷やひび割れにしみることがある |
| ローション | さらっとして広い面に塗りやすい | 背中・脚など広い範囲、夏場、毛の多い部位 | 保湿力はクリームより控えめ |
| フォーム(泡) | 泡で出て、すぐなじむ | 広範囲を短時間で。自分で背中に塗る高齢の方 | — |
| スプレー | 手が届かない部位に | 背中 | かけただけでは足りず、必ず手で伸ばす |
選ぶときの実際的な基準は「続けられるかどうか」です。保湿剤は1日2回、季節によっては何か月も塗り続けるものなので、べたついて不快な剤形を処方されると、まず続きません。使いにくいと感じたら、遠慮なく剤形の変更を申し出てください。薬を変えなくても、剤形を変えるだけで治療がうまくいくことは本当によくあります。
塗る量とタイミング
いちばん多い失敗は量が少なすぎることです。目安として、チューブから人差し指の先から第一関節まで出した量で、大人の手のひら2枚分の面積が基準になります(FTUという考え方です)。ただしチューブの口径で出る量は変わるので、塗ったあとティッシュが軽く貼りつく程度を実感の目安にしてください。足りなければ足して構いません。
タイミングは入浴後5分以内と、朝の着替えのときの1日2回が基本です。入浴直後を勧めるのは、角層に水分が残っているうちに抱え込ませたいからです。乾いてから塗るのは、空っぽの容器に蓋をするようなものです。
塗り方は、すり込まず、皮膚のしわに沿って置くように広げます。すり込むと摩擦が加わり、かゆみや色素沈着の原因になります(関連記事: 体の正しい洗い方)。
使えない場面・注意する場面
- 出血しやすい病気のある方 — 血小板が少ない、血友病などの出血性の病気がある方は使用できません。血行を促す作用があるためです
- じくじくした傷・ただれ・出血している部分 — しみます。この場合はワセリンなど刺激の少ないものに切り替えます
- 感染している皮膚 — とびひや水虫の上に保湿だけしても治りません。先に原因の治療が要ります
- 目や粘膜 — 入らないように注意してください
また、湿疹になっている部分に保湿剤だけを塗っても炎症は治りません。赤みやかゆみが出ている場所にはステロイド外用薬などで炎症を抑え、治まったところを保湿で維持する、という二段構えになります(関連記事: ステロイド外用薬は怖い?)。
保険と美容目的の線引き
ヘパリン類似物質の保湿剤は、皮脂欠乏症や湿疹など「治療が必要な皮膚の状態」に対して保険で処方される薬です。しわ対策や化粧品の代わりといった美容目的での処方は、保険の対象外です。この区別は薬の善し悪しではなく、保険が「病気の治療」に使われる仕組みだからです(関連記事: 皮膚科は保険が使える?使えない?)。
なお、ヘパリン類似物質を配合した市販の保湿クリーム・ローションも薬局で購入できます。処方が必要な量でなければ、こちらを選ぶという方法もあります。
診察室でよく聞かれる質問
| 質問 | 答え | 理由 |
|---|---|---|
| ワセリンとどちらがいい? | カサカサの乾燥肌にはヘパリン類似物質、傷やただれにはワセリンです | 前者は水分を抱えさせる薬、後者は蓋をする薬で、役割が違うためです |
| 顔に塗っていい? | 塗って構いません | 刺激が少なく、顔の乾燥にもよく使われます。ただし目に入らないよう注意してください |
| 赤ちゃんに使える? | 使えます | 低刺激で、乳児湿疹や乾燥の管理にも用いられます(関連記事: 子どもの保湿) |
| いつまで続ける? | 乾燥する季節は続けてください | 保湿剤は病気を治す薬ではなく、乾燥しやすい体質を支える薬だからです。やめれば元に戻ります |
| 去年の残りを使っていい? | 開封済みのものは勧めません | 雑菌が入っていることがあり、また処方時の症状と今の症状が同じとは限らないためです(関連記事: 残った塗り薬) |
| 他の塗り薬と混ぜていい? | 自己判断で混ぜないでください | 薬によっては効果が落ちたり、分離したりするためです。重ねる順番は医師・薬剤師に確認してください |
受診の目安
- 受診を — 保湿を続けても、2週間たってかゆみと赤みが取れない
- 受診を — 掻き壊してじくじくしている、黄色いかさぶたが付いている
- 受診を — 塗るとしみる、赤くなる(かぶれている可能性があります)
- 受診を — 全身が乾燥して眠れないほどかゆい(関連記事: 発疹がないのにかゆい)
- 使用を中止して受診を — 出血しやすい病気があると言われているのに処方されている
あび皮膚科クリニックは2027年の開業を予定しています。開業のお知らせやご質問・ご意見は、お問い合わせフォームからお寄せいただけます。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「アトピー性皮膚炎」(確認日: 2026-09-20)
- 日本皮膚科学会 診療ガイドライン(確認日: 2026-09-20)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

