「シワにはボトックス」と一括りに語られがちですが、シワには筋肉の動きでできるものと、皮膚そのものが薄くなってできるものがあり、注射が届くのは前者だけです。ここを取り違えたまま受けると、「効かなかった」「高いだけだった」という結果になりやすい。逆に、合うシワに合う量を入れれば、数分の注射で数か月間、表情のクセごと落ち着きます。
ボツリヌス療法とは — シワを消すのではなく、筋肉を休ませる
眉間の縦ジワや目尻の笑いジワは、その下にある表情筋が何十年も同じ形に縮んだ結果、皮膚が折り目を覚えてしまったものです。ボツリヌス毒素製剤は、この筋肉に指令を伝える神経の働きを一時的に弱めます。筋肉が縮まなくなれば折り目は寄らず、シワが浅くなっていきます。
大切なのは、皮膚そのものを若返らせる治療ではないという点です。注射した筋肉の力が弱まっているあいだだけ効き、代謝とともに神経の働きが戻れば、元の表情に戻ります。「消す」のではなく「休ませる」治療と考えると、効き方も、持続期間も納得しやすくなります。
なお「ボトックス」は本来ある製剤の商品名で、一般名はA型ボツリヌス毒素製剤です。日本では眉間および目尻の表情じわに対して承認された製剤があります。一方で額・あご・エラ・ふくらはぎなどへの注射は承認の範囲外(適応外使用)にあたるため、その説明を受けたうえで判断することになります。
効くシワ・効かないシワ
| シワの種類 | 見分け方 | ボツリヌス療法 | 主に検討される他の方法 |
|---|---|---|---|
| 動きジワ(眉間・目尻・額) | 表情を作ると出て、力を抜くと消える | よく合う | — |
| 刻まれたシワ(深いほうれい線・眉間の溝) | 無表情でもくっきり残る | 単独では不十分 | ヒアルロン酸注入、外用、レーザー等 |
| ちりめんジワ(目の下の細かい線) | 乾燥や紫外線でできた浅い網目状 | ほとんど効かない | 保湿・紫外線対策・外用 |
| たるみによる線(マリオネットライン) | 横になると目立たなくなる | 効かない | 注入や外科的な方法 |
| 首の縦すじ(広頸筋) | 力を入れると筋が浮く | 合うことがある(適応外使用) | — |
実際の顔では、これらが重なって存在していることのほうが多いです。眉間なら「動いたときの縦ジワ+刻まれた溝」の両方があり、注射で動きを止めたうえで、残った溝は別の方法を足す、という順序になります。1回で全部を解決しようとしないほうが、結果的に自然に仕上がります。
保険が使える場面と、自費になる場面
ボツリヌス療法には保険で行われるものがあります。皮膚科で関わりが深いのは重度の原発性腋窩多汗症(ワキの多汗症)で、塗り薬で十分な効果が得られない場合に、保険診療として検討されます(関連記事: 多汗症の治療法くらべ)。このほか眼瞼けいれん・片側顔面けいれんなど、神経の病気に対する治療も保険の対象です。
これに対し、表情じわを目的とした注射は美容目的であり、自由診療となります。同じ薬剤・同じ手技でも、目的によって扱いが変わるのは、皮膚科全体に共通する線引きです(関連記事: 皮膚科は保険が使える?使えない?)。
費用については、眉間や目尻など1部位あたりおおむね2万〜7万円程度が目安とされていますが、製剤の種類や単位数によって幅があり、医療機関ごとに異なります。「1回いくら」ではなく「何単位でいくらか」を確認すると比較しやすくなります。
※表情じわを目的としたボツリヌス療法は自由診療です。費用は医療機関ごとに異なり、効果の感じ方には個人差があります。
効果の出方と、持続期間
注射そのものは数分で終わります。効果はその場では出ません。2〜3日目から動きが鈍くなりはじめ、2週間ほどでほぼ完成します。「翌日に変化がない」と慌てて追加しないでください。効きの判定は2週間後、というのが基本です。
持続は個人差がありますが、おおよそ3〜6か月です。筋肉をよく使う人ほど早く戻ります。繰り返すうちに表情のクセそのものが弱まり、間隔が延びていく方もいます。
副作用とリスク — 知っておくべきこと
- 内出血・腫れ — 針を刺す以上、一定の頻度で起こります。多くは1〜2週間で消えます
- まぶたが重い・眉が下がる — 薬が狙った筋肉の外へ広がると起こります。時間の経過とともに回復しますが、数週間から数か月かかります。注射当日に強くこすったり、うつ伏せで寝たりしないよう言われるのはこのためです
- 表情が不自然になる — 量が多すぎる、左右差が出る、といったケース
- 頭痛・注射部位の痛み
- 効きが弱くなる — 短い間隔で繰り返すと、薬に対する抗体ができて効きにくくなることが知られています。「効かないから早めに追加」を繰り返さないほうがよい理由がここにあります
妊娠中・授乳中の方、全身の神経筋疾患がある方は受けられません。持病や内服薬(特に一部の抗菌薬)は必ず申告してください(関連記事: 妊娠中・授乳中の皮膚の薬)。
診察室でよく聞かれる質問
| 質問 | 答え | 理由 |
|---|---|---|
| 当日、化粧して行っていい? | 行っても構いませんが、施術前に落とします | 針を刺す部位を清潔にする必要があるためです。当日は落としやすいメイクにしておくと楽です |
| お酒・運動・お風呂は? | 当日は控えてください | 血行が良くなると内出血や腫れが出やすくなるためです |
| やめたら前よりシワが増える? | 増えません。元の状態に戻るだけです | 筋肉の働きが元に戻るためで、休ませていたぶん、むしろ折り目が浅くなっていることもあります |
| 1回目から強く効かせたい | 初回は控えめから始めるのが安全です | 入れた薬は抜けません。足すのは2週間後にできますが、減らすことはできないためです |
| 顔と一緒にワキも打てる? | 目的が違うため、扱いが分かれます | 多汗症は保険、美容目的は自費と、同じ日でも会計が別になることがあるためです |
受診の目安
- 相談を — 眉間のシワで「怒っている」と誤解されることが増えた
- 相談を — 無表情でもシワが残るようになってきた(注射だけでは足りない可能性があり、順序の相談が要ります)
- 受診を — 注射後、まぶたが下がって視界が狭い、水や食べ物が飲み込みにくい、全身の脱力がある
- 受診を — 注射部位が赤く腫れて熱を持ち、痛みが強くなっている(感染の可能性)
あび皮膚科クリニックは2027年の開業を予定しています。開業のお知らせやご質問・ご意見は、お問い合わせフォームからお寄せいただけます。
関連ページ
参考情報
- 日本美容外科学会(JSAPS)(確認日: 2026-09-20)
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A(確認日: 2026-09-20)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

