「手術の前に血液サラサラの薬は止めますよね?」と、患者さんのほうから聞かれることがよくあります。以前は止めるのが普通でしたが、考え方はここ十数年で大きく変わりました。皮膚の手術は体の表面で行い、出血してもその場で押さえられる場所です。一方、薬を中断している数日間に血の塊ができると、取り返しがつきません。この非対称が、判断の土台になっています。
「血液をサラサラにする薬」には2種類ある
ひとくちに言われますが、働き方の違う2つのグループがあります。どちらを飲んでいるかで、手術のときに気をつける点が変わります。
| 種類 | 代表的な成分 | 何のために飲んでいるか | 手術での注意 |
|---|---|---|---|
| 抗血小板薬 (血小板が固まるのを抑える) |
アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール など | 心筋梗塞・脳梗塞の再発予防、ステント留置後 | にじむような出血が長引きやすくなります。皮膚の手術では継続したまま行うのが一般的です |
| 抗凝固薬 (血を固める仕組みそのものを抑える) |
ワルファリン、直接経口抗凝固薬(DOAC) など | 心房細動、深部静脈血栓症、人工弁 | 出血はやや多くなります。ワルファリンは効き具合の血液検査(PT-INR)が安定しているかが判断材料になります |
このほか、市販のサプリメントや漢方にも、出血しやすさに影響しうるものがあります(EPA・DHA、イチョウ葉、ニンニク、ビタミンEなど)。薬ではないからと省略せず、飲んでいるものはすべてお伝えください。
皮膚の手術で、実際どれくらい影響するか
粉瘤の摘出、ほくろやできものの切除、皮膚生検といった処置は、切る範囲が小さく、出血している場所を直接見て止められます。電気メスで焼いて止める、縫い合わせて閉じる、ガーゼでしっかり押さえるといった方法が、その場で使えます。
そのため、抗血栓薬を飲んでいる方で実際に増えるのは、多くの場合「手術中の出血が少し多い」「術後に内出血の青あざが広めに出る」「血がにじんでガーゼ交換が増える」といった範囲にとどまります。止まらなくなるような出血は、皮膚の小手術ではまれです。
ただし、まぶた・耳・鼻など血流が豊富で皮膚が薄い部位、範囲が大きい切除、皮弁や植皮を伴う再建では話が変わります。この場合は、手術の内容と薬の種類を見て、処方している主治医に問い合わせたうえで方針を決めます。決めるのは皮膚科医だけではなく、薬を出している循環器内科や脳神経内科の医師との相談になります。
受診・手術前に必ず伝えてほしいこと
- お薬手帳を持参してください。薬の名前を口頭で言っていただくより、確実で早いためです
- いつから飲んでいるか、なぜ飲んでいるか — ステント留置の直後など、絶対に中断できない時期があります
- これまでに、抜歯や手術で血が止まりにくかった経験があるか
- 血が止まりにくい体質を指摘されたことがあるか、ご家族にいるか
- サプリメント・漢方・市販の鎮痛薬(一部の痛み止めも血小板の働きに影響します)
- 肝臓・腎臓の病気があるか — 薬の効き方が変わることがあるためです
出血を減らすために、実際に行っていること
薬を止めない代わりに、手術のやり方と術後の過ごし方で補います。患者さんの側でできることも、思ったより効果があります。
| 場面 | すること | 理由 |
|---|---|---|
| 手術中 | 電気メスでこまめに止血する、切る範囲を必要最小限にする | にじむ出血を早い段階で減らせるためです |
| 手術直後 | 指示された時間、しっかり圧迫する | 圧迫は最も確実な止血方法です。軽く当てるだけでは効きません |
| 当日 | 入浴は避け、シャワーも指示に従う。飲酒をしない | 体が温まると血管が広がり、いったん止まった場所から再出血しやすくなるためです |
| 当日〜数日 | 運動・重いものを持つ動作・患部を使う作業を控える | 傷に力がかかると縫い合わせた部分が引っ張られ、出血や傷の広がりにつながります |
| 数日間 | 患部を心臓より高くできる部位なら、少し高くして休む | むくみと内出血が軽くなります |
術後に内出血で青あざが広がることがありますが、これ自体は数週間かけて黄色く変わりながら消えていきます。驚かれる方が多いので、先にお伝えしておきます(関連記事: 粉瘤の手術後の過ごし方)。
術後に連絡・受診してほしいサイン
- ガーゼを替えてもすぐに血がにじみ、圧迫しても止まらない
- 傷の周りがパンパンに腫れて、痛みが増している(血がたまっている可能性があります)
- 数日たってから、赤み・熱感・強い痛み・膿が出てきた(感染のサインです)
- 発熱を伴う
診察室でよく聞かれる質問
| 質問 | 答え | 理由 |
|---|---|---|
| 念のため数日前から止めておいたほうが安心では? | 自己判断での中止はしないでください | 中断した期間に血栓症が起こる例が知られており、そのリスクは皮膚の小手術の出血より重いと考えられているためです |
| 止めることは一切ないのですか? | 手術の内容によっては、処方医と相談のうえ調整することがあります | 切除範囲が大きい場合や再建を伴う場合です。判断は薬を出している医師と一緒に行います |
| 手術当日の朝も、いつもどおり飲んでよいですか? | 継続と決まっている場合は、いつもどおりで構いません | 飲み忘れや自己中断のほうが問題になるためです。指示があればそれに従ってください |
| 痛み止めは飲めますか? | 術後は、まず解熱鎮痛薬の中で出血に影響しにくいものが選ばれます | 一部の痛み止めは血小板の働きを抑えるためです。市販薬を使う前にご相談ください |
| 抜糸まで何日くらいかかりますか? | 部位によりますが、顔は短く、背中や足はやや長めになります | 皮膚の厚さと、動きによる引っ張られ方が部位ごとに違うためです |
| 手術のあと、車を運転して帰れますか? | 基本的には運転して帰れます | 局所麻酔の手術だからです。ただし部位や体調、使った薬によっては控えていただくことがあります |
受診の目安
- 受診を — 抗血栓薬を飲んでいて、粉瘤やできものを取りたいと考えている(まずは相談からで構いません)
- 受診を — できものが大きくなってきた、痛み出した(関連記事: 粉瘤が腫れて痛いとき)
- 早めに受診を — 手術後、圧迫しても血が止まらない、傷が急に腫れてきた
- その日のうちに受診を — 発熱を伴う、傷の周りの赤みが広がっていく
あび皮膚科クリニックは2027年の開業を予定しています。開業のお知らせやご質問・ご意見は、お問い合わせフォームからお寄せいただけます。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 診療ガイドライン一覧(確認日: 2026-09-19)
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 粉瘤(確認日: 2026-09-19)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

