「排水口が真っ黒になる」「ブラシに毛が束で付く」——産後の方から、不安そうに写真を見せていただくことがよくあります。結論から言えば、ほとんどは元に戻ります。ただ「いつまで続くのか」「何かしたほうがいいのか」が分からないまま毎日抜けるのはつらいので、経過の見通しと、やってよいこと・やらなくていいことを整理します。
なぜ産後に一斉に抜けるのか
髪の毛は1本ずつ、伸びる時期(成長期)・準備の時期(退行期)・休む時期(休止期)を繰り返しています。ふだんは全体の1割ほどが休止期にあり、毎日50〜100本程度が自然に抜けています。抜けた分だけ新しい毛が生えるので、量は保たれます。
妊娠中は、ホルモンの影響で成長期が引き延ばされ、本来なら抜けるはずの毛が抜けずに頭に残ります。「妊娠中は髪が増えた気がする」と感じるのはこのためです。ところが出産でホルモンが急に元に戻ると、ため込まれていた毛が一斉に休止期に入り、2〜3か月遅れてまとめて抜けます。
つまり「毛が作れなくなった」のではなく「抜ける順番がそろってしまった」状態です。毛根は生きているので、順番がばらけてくれば元の密度に戻ります。ここが、進行して薄くなっていくタイプの脱毛との決定的な違いです。
経過の見通し
| 時期 | 起きていること | 見た目 | この時期にすること |
|---|---|---|---|
| 産後すぐ〜2か月 | まだ変化が少ない | ふだんどおり | とくにありません |
| 産後2〜4か月 | 抜け毛のピーク | 排水口・ブラシの毛が明らかに増える | 驚きますが、まずは様子を見る時期です |
| 産後4〜6か月 | 抜ける量が減り始める | 生え際に短い毛が立ってくる | この短い毛は回復のサインです |
| 産後6か月〜1年 | 新しい毛が伸びる | アホ毛のように立つ毛が目立つ | まとめ髪や分け目の工夫で乗り切れます |
| 1年以降も続く | 別の原因が隠れている可能性 | 分け目・頭頂部が広がり続ける | 受診して原因を調べる段階です |
やっていいこと・やらなくていいこと
この時期に相談が多いものを、実際の答えのまま並べます。
- 髪を結ぶのは構いませんが、強く引っぱらないでください — 同じ場所を毎日きつく引っぱると、生え際が薄くなる牽引性の脱毛が重なることがあります。抜け毛の時期は、ゆるめに結ぶか結ぶ位置を変えるだけで違います
- カラー・パーマは体調が落ち着いていれば可能です — 髪の表面の処理であり、毛根の回復を妨げるものではありません。ただし頭皮がしみるときは避けてください(関連記事: ヘアカラーで頭皮がかゆい)
- シャンプーは毎日で構いません — 「洗うと抜ける」と回数を減らす方がいますが、洗わなくても抜ける毛は抜けます。洗うのをやめると皮脂がたまり、かえって頭皮の湿疹が出やすくなります
- 極端な食事制限は避けてください — 産後のダイエットで栄養が不足すると、休止期脱毛が長引くことがあります。授乳中はとくに、無理な制限をしない時期です
- 育毛の薬は、自己判断で使わないでください — ミノキシジル外用薬は、妊娠中・授乳中は使用しないこととされています。サプリメントも含め、授乳中に使うものは医師・薬剤師に確認してからにしてください
「産後だから」で片づけないほうがよい場合
産後の時期は、ほかの原因も重なりやすい時期です。次のようなときは、産後の生理的な抜け毛だけで説明しないほうが安全です。
- 強いだるさ・動悸・体重の急な変化を伴う — 産後は甲状腺の働きが乱れることがあり、抜け毛がそのサインとして出ることがあります(関連記事: 甲状腺の病気と皮膚)
- めまい・息切れ・爪が割れやすい — 出産時の出血や授乳で鉄が不足していることがあります。自己判断でサプリを足すより、まず血液検査で確かめたほうが確実です
- 境目のはっきりした丸い脱毛がある — 円形脱毛症は産後にも起こります(関連記事: 円形脱毛症)
- 1年以上たっても分け目が広がり続ける — 女性の薄毛(FPHL)が始まっている可能性があります(関連記事: 女性の薄毛)
- 頭皮に赤み・フケ・かゆみが強い — 頭皮の炎症が続くと抜け毛が増えます
診察室でよく聞かれる質問
| 質問 | 答え | 理由 |
|---|---|---|
| 1日にどれくらい抜けたら異常? | 本数より「減り方」で見ます | 数えても季節や洗う頻度で変わるためです。分け目の広がりや地肌の透け方のほうが確実な指標になります |
| 2人目でも起こる? | 起こります | 妊娠・出産でホルモンが変化する仕組みは毎回同じだからです |
| 生え際にピンピン立つ短い毛は何? | 新しく生えてきた毛です | 回復している証拠なので、抜いたり押さえつけたりせず伸ばしてください |
| 授乳をやめたら早く戻る? | 授乳の有無で経過は大きく変わりません | 主な引き金は出産によるホルモンの切り替わりだからです |
| 育毛シャンプーに変えるべき? | 必須ではありません | 頭皮が荒れていなければ、使い慣れたもので十分です。刺激でしみるものは避けてください |
受診の目安
- 受診を — 産後1年を過ぎても抜け毛が減らない、分け目が広がり続ける
- 受診を — 丸く抜けている場所がある
- 受診を — 頭皮に赤み・フケ・かさぶた・強いかゆみがある
- 早めに受診を — 強い倦怠感・動悸・体重の急な増減・むくみを伴う
- 受診を — 薬やサプリメントを使いたいが、授乳中に使えるか分からない
あび皮膚科クリニックは2027年の開業を予定しています。開業のお知らせやご質問・ご意見は、お問い合わせフォームからお寄せいただけます。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 脱毛症(確認日: 2026-09-17)
- 日本皮膚科学会 診療ガイドライン一覧(確認日: 2026-09-17)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

