「額の生え際が後退してきた」「分け目のところだけ地肌が見える」というご相談のうち、女性で意外に多いのがこの牽引性脱毛症です。原因がはっきりしていて、自分でやめられるという点で、ほかの脱毛症とは性質が違います。
なぜ引っぱると抜けるのか
髪の毛は、頭皮の中の毛包(もうほう)という袋から生えています。強い力で長時間引っぱられ続けると、毛包の周りに炎症が起き、毛が抜けやすくなります。この段階なら、力が加わらなくなれば毛包は回復し、また生えてきます。
問題は、その先です。炎症が何年も続くと毛包が線維に置き換わり(瘢痕化)、袋そのものが消えてしまいます。こうなると、どんな治療をしても毛は戻りません。「早ければ戻る、遅ければ戻らない」とはっきり言えるのは、この構造的な理由があるからです。
原因になりやすい習慣
臨床で多い順に挙げます。
- きつく高い位置でまとめる髪型 — ポニーテール、お団子、シニヨン。バレエ、新体操、チアリーディング、看護・調理などの職業で毎日続く方に多く見られます
- 編み込み・コーンロウ・ドレッドヘア — 根元から強く引くため、負担が大きい形です
- エクステンション・ウィッグの固定 — 地毛に重さがかかり続けます
- 同じ分け目を何年も変えない — 分け目の生え際に力と紫外線が集中します
- ヘアアイロン・縮毛矯正・強いブラッシング — 毛自体が切れることで薄く見える要素も加わります
- ヘルメット・ヘアバンド・帽子の圧迫 — 同じ場所に当たり続ける場合
共通しているのは「同じ場所に、毎日、長時間」です。1回きつく結んだから起こるものではありません。
ほかの脱毛症との見分け
| 牽引性脱毛症 | 女性の薄毛(FPHL) | 円形脱毛症 | 休止期脱毛 | |
|---|---|---|---|---|
| 薄くなる場所 | 生え際・こめかみ・耳の上・分け目など、引っぱられる部分 | 頭頂部・分け目が全体に広がる | 円形にくっきり | 全体が均等に薄くなる |
| 左右差 | 結び方に応じた左右差が出る | 左右対称 | どこにでも | 左右対称 |
| 生え際の毛 | いちばん前の細い毛だけ残ることがある | 細く短い毛が増える | 境界に短い毛 | 正常な太さ |
| 症状 | 結んだ日にピリピリ痛む、赤いブツブツ | 自覚症状は少ない | 自覚症状は少ない | 抜け毛の量が急増 |
| きっかけ | 髪型・職業・習慣 | 加齢・体質 | 不明 | 出産・手術・強い負荷から2〜3か月後 |
実際には重なることもあります。もともと薄毛の傾向がある方が強く結べば、当然そこから目立ちます。「AではなくB」と切り分けるより、両方が関わっていると考えたほうが現実に合います(関連記事: 女性の薄毛)。
今日からできること
治療より先に、力を減らすことが本題です。
- 結ぶ位置を毎日変える — 同じ場所に力が集中しないためです。高い位置のポニーテールほど負担が大きくなります
- 結ぶ強さを落とす — 目安として、結んだ直後に目尻が引っぱられる感じや頭皮の痛みがあれば、きつすぎます
- 寝るときはほどく — 1日のうち引っぱられない時間をつくるためです
- 分け目を数か月ごとに変える — 生え際の負担と紫外線を分散できます
- 濡れた髪を強く引かない — 濡れた毛は伸びて切れやすい状態だからです
- ゴムは細いものより幅のあるもの、金具のないものを — 力が1点に集中しないためです
それでも改善が乏しいとき、あるいは進行が早いときには受診してください。診察ではダーモスコピーで毛包の入り口が残っているかを確認します。入り口が見えていれば回復の余地があり、見えなくなっていれば瘢痕化を考えます。この確認ができると、「待てばいいのか」「別の手段を考えるのか」がはっきりします(関連記事: ダーモスコピー検査)。
赤みやブツブツ、膿を伴う場合は、毛包に炎症が起きているので、それを抑える外用薬を使うことがあります。すでに瘢痕化した部分については、髪型でカバーする、部分的な増毛や植毛を検討するなど、方向性が変わります。
診察室でよく聞かれる質問
| 質問 | 答え | 理由 |
|---|---|---|
| どのくらいで生えてきますか? | 引っぱるのをやめてから数か月〜1年ほど見ます | 毛には生え変わりの周期があり、休んでいた毛包が動き出すまで時間がかかるためです |
| 育毛剤で治りますか? | 原因を取り除くことが先で、それなしでは効果は期待しにくいです | 引っぱる力が続く限り、同じ場所が繰り返し傷むためです |
| 結んだときに頭皮が痛いのは? | きつすぎるサインです。緩めてください | 痛みは毛包に無理な力がかかっている合図だからです |
| 子どもでも起こりますか? | 起こります | 髪をきつくまとめる習い事や部活で見られます。年数が短いぶん、やめれば戻りやすい段階です |
| 帽子やヘルメットはやめるべき? | やめる必要はありません | 問題は同じ場所への持続的な牽引であり、サイズを合わせ、長時間の圧迫を避ければ構いません |
受診の目安
- 受診を — 生え際・こめかみだけが薄くなり、髪をまとめる習慣が続いている
- 受診を — 結ぶのをやめて半年たっても生えてこない
- 受診を — 薄い部分に細い毛すら見えず、地肌がつるっとしている
- 受診を — 頭皮に赤み・ブツブツ・膿があり、痛みやかゆみを伴う
- 早めに受診を — 抜け方が急に進んだ、円形にはっきり抜けた(別の脱毛症の可能性があります)
あび皮膚科クリニックは2027年の開業を予定しています。開業のお知らせやご質問・ご意見は、お問い合わせフォームからお寄せいただけます。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「脱毛症」(確認日: 2026-09-19)
- 日本皮膚科学会 診療ガイドライン一覧(確認日: 2026-09-19)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

