皮膚のがんと聞くと、多くの方はほくろの変化(メラノーマ)を思い浮かべます。しかし実際の診療でより多く出会うのは、基底細胞癌と有棘細胞癌です。どちらも見た目が地味で、「できもの」「傷」「湿疹」に見えることが、発見が遅れる理由になっています。
有棘細胞癌とは: 表皮の細胞から生じるがん
皮膚のいちばん外側の層(表皮)は、有棘層と呼ばれる細胞の層を含んでいます。この細胞が、長年の刺激やダメージの積み重ねでがん化したものが有棘細胞癌です。
背景として知られているものがあります。
- 長年の紫外線 — 屋外での仕事や活動が長い方、高齢の方に多く、顔・耳・手の甲・頭など、日の当たる場所に出やすい傾向があります
- 日光角化症からの進行 — 前の段階にあたる病変で、ざらざらした赤い斑として現れます(関連記事: 日光角化症とは)
- 治らない傷・やけどの跡・慢性の炎症 — 長期間治らない潰瘍や瘢痕から生じることがあります
- 免疫を抑える治療を受けている — 臓器移植後などで頻度が上がることが知られています
基底細胞癌との違いも知っておくと役立ちます。基底細胞癌は黒っぽく光沢のある小さな盛り上がりとして出ることが多く、転移はまれです。有棘細胞癌は、盛り上がって表面が崩れやすく、進行すればリンパ節へ広がることがある点が違います(関連記事: 基底細胞癌とは)。
見た目のサイン
| 気になる所見 | どう見えるか | 紛らわしいもの |
|---|---|---|
| 治らない傷・潰瘍 | 数か月にわたり、ふさがらない | 単なる擦り傷、とびひ |
| 繰り返すかさぶた | 取れてはまたできる。下がじゅくじゅくしている | 湿疹、ひび割れ |
| 盛り上がった硬いできもの | 表面がざらざら・いぼ状。押すと硬い | イボ(尋常性疣贅)、脂漏性角化症 |
| 出血しやすい | 触れたり洗ったりするとにじむ | 血管腫、化膿性肉芽腫 |
| においを伴う | 表面が崩れ、分泌物がある | 感染した粉瘤 |
| ゆっくり大きくなる | 月単位で確実に大きくなる | ——(この点は重要な手がかり) |
共通しているのは、「よくなったり悪くなったりを繰り返しながらも、全体としては大きくなっている」という経過です。湿疹やイボは治療に反応しますが、これは反応しません。「塗り薬を出してもらったが変わらない」が続いているなら、診断そのものを見直す段階です。
診断と治療
診断は皮膚生検で確定します。拡大鏡(ダーモスコピー)で観察したうえで、病変の一部または全体を採って顕微鏡で調べます。見た目だけで「がんではない」と断定することはできません(関連記事: 皮膚生検とは)。
治療の基本は手術による切除です。がん細胞を取り残さないために、病変の縁から一定の余裕(マージン)を付けて切除します。
- 切除 — 大きさと場所によって、そのまま縫い寄せる、皮膚を移植する、周囲の皮膚を移動させるなど方法が変わります
- リンパ節の評価 — 進行度によって、近くのリンパ節を調べることがあります
- 放射線治療・薬物療法 — 手術が難しい場合や、広がりがある場合に検討されます
- 前段階(日光角化症)への治療 — 凍結療法や外用薬で対応し、進行を防ぎます
治療の内容は、大きさ・深さ・場所・全身の状態によって大きく変わります。専門的な検査と相談のうえで決める領域であり、個別の見通しは診察を受けたうえでご確認ください。
診察室でよく聞かれる質問
| 質問 | 答え | 理由 |
|---|---|---|
| 痛みがないから大丈夫では? | 痛みは目安になりません | 皮膚のがんは痛みを伴わないことが多いため |
| 市販の薬を試していい? | 試す前に診断を | 効かないまま時間が過ぎることが最大の不利益だから |
| 生検をすると悪くなる? | なりません | 診断が確定しないほうが不利。治療方針が決められないため |
| 年配の親のイボが大きくなってきた | 受診をすすめてください | 脂漏性角化症(老人性イボ)と紛らわしく、見た目では区別できないため(関連記事: 老人性イボとは) |
| 日焼け止めは今からでも意味ある? | あります | 今後のダメージの蓄積を減らせるため |
| どのくらいの期間治らなければ受診? | 2〜3か月が一つの目安 | 通常の傷や湿疹はこの期間で改善するため |
受診の目安
- 2〜3か月以上治らない傷・潰瘍がある
- かさぶたができては剥がれるを繰り返している
- できものがゆっくり大きくなっている、硬い、出血する
- 日光角化症と言われた場所が盛り上がってきた
- 急に大きくなる、強い痛みを伴う、リンパ節が腫れている — 早めに受診してください
- やけどの跡や長年の潰瘍の部分に変化が出た方も、一度診察を受けてください
皮膚のがんは、早い段階で見つかれば対応の選択肢が広がります。「たぶん大丈夫だと思うけれど、治らない」——この状態こそ、診てもらうタイミングです。
あび皮膚科クリニックは2027年の開業を予定しています。開業のお知らせやご質問・ご意見は、お問い合わせフォームからお寄せいただけます。
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 皮膚悪性腫瘍(確認日: 2026-09-12)
- 日本皮膚科学会 診療ガイドライン一覧(確認日: 2026-09-12)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

