「がんの薬を始めて2週間で、顔と胸にニキビのようなものが一気に出た」「指の爪の横が腫れて痛くて、ボタンが留められない」。肺がん・大腸がん・頭頸部がんなどの治療で使われるEGFR阻害薬は、皮膚にこうした症状を起こしやすい薬です。出る時期、症状ごとの対処、予防のケア、皮膚科にかかるタイミングを説明します。
なぜ皮膚に症状が出るのか
EGFR(上皮成長因子受容体)は、がん細胞の増殖に関わる受容体ですが、皮膚・毛・爪の細胞にも多く存在し、皮膚の生まれ変わりやバリアの維持に働いています。EGFR阻害薬はがん細胞のEGFRを止めると同時に、皮膚のEGFRも止めてしまうため、皮膚の生まれ変わりが乱れ、毛穴の炎症・乾燥・爪の周りの炎症が起こります。
つまり、この皮疹は薬に対するアレルギーではなく、薬の作用そのものによる反応です。皮疹が出たからといって薬が体に合わないわけではなく、皮疹が強い方ほどがんへの効果も高い傾向があるという報告もあります。だからこそ、皮膚の症状をコントロールしながら治療を続けることが大切になります。
症状と出る時期
| 症状 | 出やすい時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| ニキビ様皮疹(ざ瘡様皮疹) | 開始から1〜2週間 | 顔・頭皮・胸・背中に、赤いブツブツや膿をもったブツブツ。普通のニキビと違い、黒ニキビ(面皰)がなく、かゆみや痛みを伴うことがある |
| 皮膚の乾燥・かゆみ | 開始から数週間〜 | 全身がカサカサし、指先や手足にひび割れ。湿疹になることもある |
| 爪囲炎(そういえん) | 開始から1〜2か月 | 爪の横の皮膚が赤く腫れて痛む。盛り上がった肉芽(にくげ)ができ、出血しやすい。足の親指・手の指に多い |
| 毛の変化 | 数か月〜 | まつ毛や眉毛が長く伸びる、髪が細く縮れる、脱毛 |
症状ごとの対処
ニキビ様皮疹: ステロイドの塗り薬と、抗菌薬(ミノサイクリンなど)の内服が中心です。普通のニキビ治療薬(アダパレンや過酸化ベンゾイル)は刺激が強く、かえって悪化させるため使いません。皮疹が出る前から抗菌薬を予防的に飲み始める方法も広く行われています(この予防投与は保険適用上は適応外使用にあたり、医師の判断で行われます)。
乾燥・かゆみ: 保湿剤を1日2回以上、全身にたっぷり塗ります。ヘパリン類似物質や尿素の製剤、ワセリンなどが使われます。かゆみや湿疹には、ステロイドの塗り薬や抗ヒスタミン薬の内服を加えます。熱いお湯・長風呂・ナイロンタオルでこする洗い方は避けてください。
爪囲炎: 初期は、ステロイドの塗り薬と、爪の横の皮膚を引き離すテーピングで対応します。肉芽が盛り上がってきたら、液体窒素や、肉芽の切除、爪の一部を切る処置が必要になることがあります。靴の圧迫を避け、爪は深く切らず四角く切ります。
始める前・始めてすぐにできる予防ケア
皮膚の症状は、薬を始める前から予防のケアをしておくと軽く済むことが分かっています。がん治療の主治医から皮膚科へ、治療開始前に紹介されることも増えています。
- 保湿を開始日から毎日。症状が出てからではなく、出る前から全身に塗ります。
- 日焼け止めを使う。紫外線で皮疹が悪化します。屋外では帽子・長袖も。
- 洗浄は低刺激の石けんをよく泡立てて、手でやさしく。ゴシゴシ洗いは乾燥とひび割れを悪化させます。
- 爪は短く切りすぎず、四角く整える。きつい靴・ハイヒールを避け、指先の圧迫を減らします。
- 皮疹が出る前からの抗菌薬内服やステロイド外用を行うかは、主治医・皮膚科と相談します。
自己判断で薬をやめない
皮膚の症状がつらくて、がんの薬を自分の判断で飲むのをやめたり、間隔をあけたりする方がいます。しかし、皮膚の症状は皮膚科の治療でかなり軽くできることが多く、がん治療の効果を犠牲にする前に、皮膚の治療を強める余地があります。薬の減量や休薬が必要なほど強い症状かどうかは、主治医と皮膚科が症状の程度(グレード)を見て判断します。つらさを我慢せず、早めに伝えてください。
診察室でよく聞かれる質問
Q. 皮疹が強いと薬が効いている、というのは本当ですか?
A. 皮疹が強い方で治療効果が高い傾向があった、という報告はあります。ただし、皮疹が出ない方に効かないという意味ではありません。「皮疹は我慢すべき」と考えず、治療で和らげながら続けるのが基本です。
Q. 皮疹はいつまで続きますか?
A. ニキビ様皮疹は、治療を続けていると数か月で自然に軽くなる方が多いです。乾燥や爪囲炎は、薬を続けている間は続きやすく、治療を終えると改善していきます。
Q. メイクはしてもいいですか?
A. 構いません。皮疹を隠すための低刺激のメイクは、気持ちの面でも役に立ちます。クレンジングはやさしく行い、落とした後は保湿をしてください。
受診の目安(主治医と皮膚科へ)
- 皮疹が顔や体の広い範囲に出て、痛み・かゆみで眠れない、日常生活に支障がある
- 爪の横が腫れて痛み、歩く・物をつかむのがつらい、出血する
- 皮膚のひび割れから出血する、じゅくじゅくして黄色いかさぶたができた(感染の可能性があります)
- 発熱、水ぶくれ、口の中・唇・目のただれを伴う皮疹(別の重い薬疹の可能性があり、すぐに主治医へ連絡してください)
関連ページ
参考情報
- 日本皮膚科学会 ガイドライン一覧(確認日: 2026-10-28)
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 爪(確認日: 2026-10-28)
本記事は皮膚科領域の一般的な公開情報に基づいて作成しています。個別の症状の判断は、必ず医療機関でご相談ください。

